母の話。
母(ひろみ)は,楽しい。
夜になると,よく家族で夕涼みに海岸沿いへ行っていた。
暗い日本海の向こうに灯りが見える。
「きれいだね。夜になると辺りが暗いから外国の灯りが見えるんだよ。」
ちいさかった私は,夕涼みのたび,母の言葉に海の向こうの街を想像し,
ワクワクしていた。
ある日,野生派の父が日本海を指差し,
「光っとるのが見えるだろ?あれは,イカ獲り船だ。今夜は,よーけ船が出とるなー。」
...イカ獲り船。頭の中の街の灯りが一つ,二つ,三つ...静かに消えていく。
子どもながらにショックを受けたのを思い出す。
大人になって,母にその話をすると,
「まぁ,そんなこと言ってた?ロマンティックだねぇ。」
自分の言っていた事に感動している。偉大なる母。
現役時代,寮生活をしていた時...珍しく深刻な声で母から電話があった。
何やら聞いてみると,妹の血液検査があり,両親から生まれるはずのない
血液結果だったらしい。
「何があってもワシの子だ!うちの子だ!!」
電話の向こうの母の後ろで,父の声が聞こえる。
突然過ぎて,なにがなんだかわからない...。
数日後,「私の血液が違ったわ。あはは...。」あっかるい母の声。
母は,授業で調べた血液型をずっと信じていたらしい。
「いらんわー。今の歳まで血液型占いもちがうとこ見てたってことだわー。」
って,気になるのは,そっちかーい。偉大なる母。