現役時代,みんなのお母さんと言われていたほど,前田コーチは,面倒見がよく,いつも
みんなを見守ってくれていた。
当時,先輩は23歳くらいだったと思うのに,私達18歳以上の子持ち状態。
のちに...有森さんの練習パートナーとなる同期のYちゃんは,高校時代の先生でも
ある小出監督など,誰に怒られてもへっちゃらなのに,優しい先輩(前田コーチ)に
怒られると心底凹むって言っていた。わかるような気がする。
入社し,まもなく,小出監督からLong Jog(時間走)のメニューを与えられた日が
あった。場所は昭和の森というクロカン練習のできるところで,監督さえ振り切れば,
どこででも隠れる?ことのできる広い場所。サボる新人どもの先手をうったのか,
先輩達と走る指示が付け加えられる。私は前田コーチと,同期Yちゃんと走ることに。
「いくらゆっくりっていっても、今日のJogの時間、長過ぎるよねー。」
「バターになっちゃうよ。」
(↑ちび黒サンボのこと...ぐるぐるまわる練習を表現する。トラックを何周もするとか,
小さな周回コースを何周も走らなければならない時使うのが,正しい使い方。先輩達の
愚痴から学ぶ。ちなみに,前田コーチの練習の愚痴は聞いたことがない。)
Yちゃんとブツブツ言いながら,先輩のあとをトコトコ。うー,何度時計見ても時間が
進まない。そこで...トイレで時間を稼ぐ作戦に入ることに。
「先輩ー,トイレに行っていですか?」「いいよー。」即返答。やったー!
先輩(前田コーチ)は優しい。で,トイレツアーJogへ...トコトコ。
トイレ前に到着。すると...
ピーーーっ。
ピーって?えっ,今,ピーって言った?言ったよね?
...Yちゃんと空耳でなかったことを確認。
先輩の様子を伺う。極自然に先輩の右手は左手の腕時計のstopボタンへ。ゴーン...。
止まっちゃったー。時間止まっちゃったよー。トイレの中で心入れ替え作業。
ふぅ,潔く時間いっぱい,がんばろう...先ほどまでの悪い心をそっとトイレで流す。
笑顔で待ってくれてた先輩の後ろを何もなかったように,再びトコトコ。
メニューは,なーんてことのないゆっくりJog。だが,厳しさを学んだ練習の日となった。
先輩は偉大だぁー。
ちなみに,私たち二人のゴーン...の衝撃は,ずいぶん月日が経ってからしか,
前田コーチには話せなかった...。
こうやって,小出監督の指導だけではなく,先輩の後ろを追い,スタミナをつける日々。
いい先輩に出会えて良かった。先輩は偉大だぁー。